ルネ・ジラールと供儀とキリスト教

ジラールの人類学的考察は、現代の思考に逆流している。様々な普遍概念や否定神学を排除する思想的潮流の中、人類学をもとに文化一般に適応可能な概念と、キリストの十字架の普遍性を堂々と語る。勿論、街角の狂信的なツァラトゥストラの宣言とは似ても似つ…

Mogens Laerke とスピノザの哲学言語

Mogens Laerkeは、初期近代の哲学史家である。スピノザ読解者としてのライプニッツについての博士論文をソルボンヌに2003年に提出し(ピエール=フランソワ・モローが指導教官の一人である)、それを2008年に出版している。現在はアバディーン大学の…

ジョナサン・イスラエルとラディカルな啓蒙主義の集大成としてのフランス革命

先日、プリンストン大学とプリンストン高等研究所(IAS)主催の、18世紀セミナーに行って来た。今年度初めてのセミナーは、IASの上級研究員である、ジョナサン・イスラエル博士の Democratic Enlightenment: Philosophy, Revolution, and Human Rights, 1750…

日本宗教学会 in 関西学院

9月2日から4日まで、関西学院で開催される日本宗教学会で発表することになっている、スラヴォイ・ジジェクのキリスト教理解についてのレジュメです。 「現代思想の宗教回帰—スラヴォイ・ジジェクの議論を中心として—」 ジョン・カプートが唱えるように、…

神と存在

新刊の紹介。現在オックスフォード大学の神学教授である George Pattison の最新作、『神と存在:一考察』(God and Being: An Enquiry, Oxford: Oxford University Press, 2011. pp. 350.)は、ハイデッガーの存在-神論 (Onto-theologie) の現代的神学意義を…

オデュッセイアと聖書

新刊物色中に遭遇した、ホメロスと旧約聖書を比較研究するという、なかなか面白そうな試み。両方とも古代中近東の文化的産出なので、ナラティブのジャンルが似てくるのは当然ではある。ギルガメッシュやエヌマ・エリシュなどには出てこない物語の比較がされ…

煉獄の歴史 Isabel Moreira

煉獄(purgatorium)についての新しい研究書がオックスフォード大学出版から出ている。著者はユタ大学で教えるIsabel Moreira。8世紀のベーダ・ヴェネラビリスによって理論的枠組みをあたえられた煉獄の思想の背景と発展を探る。宗教改革の始まりであるとされ…

ゲオルギイ・フロロフスキイ

ゲオルギイ・フロロフスキイは、ロシア正教の神学をギリシャ教父たちの源泉へと導いた第一人者。このディスカッションのためにWays of Russian Theology(1937) の一部を読んでみたが、浅漬けにもならない知識なのでレクチャーが楽しみである。正教の贖罪論は…

コンテクストの内のカルヴァン

David SteinmetzのCalvin in Contextの第二版が出版された。著者はデューク大学で長年教鞭をとり、神学思想史の分野では重鎮的存在である。最近は病気のため著作活動はしていなかったと聞く。そのためか、この第二版に加えられた5つの論文は、多くは既に出…

書評 Philip Rosemann, The Story of a Great Medieval Book

Kuni君がRosemannについてツィットしていたので、以前書いた書評をのせてみる。 Philipp W. Rosemann, The Story of a Great Medieval Book: Peter Lombard's Sentences. Rethinking the Middle Ages v. 2. Peterborough, Ont: Broadview Press, 2007. 248 p…

Post-Reformation Digital Library

友人の作ったサイトで、現在はカルヴァン大学の図書館に属しているが、初期近代のウェブ上に氾濫しているデジタル文献をまとめたとても便利なサイトがある。http://libguides.calvin.edu/prdl神学系のリソースがとても便利なサイトだ。

メランヒトンと私有財産

最近はもっぱらメランヒトン。発表も論文も終わったのに気になる。Paul W. Robinson, "'The Most Learned Discourses of the Philosophers and Lawyers': Roman Law, Natural Law, and Property in Melanchthon's Loci Communes" in Concordia 2002: 41-53. …

雑記的なもの

モントリオールがおわり、総合試験用に16・17世紀のプロテスタント大学、主に改革派、における形而上学の発展をまとめたり、今朝(11.19.10)行ったルターと中世聖餐論についてのレクチャーの準備などをしていた。忙しいながらも、先々週はメトロポリタン…

モントリオールと十六世紀学会

Sixteenth Century Society and Conferenceの為に、モントリオールに来ている。木曜日の1:30に"The Peasants' War and Melanchthon's Reinstating of Aristotle's Ethics in the Protestant Arts Curriculum" というタイトルの発表をする。一番最初のセ…

総合試験 第一部

漸く三つの総合試験がおわる。準備を五月末からはじめて、一つの試験につき30−35冊の本を読んでいた。心身ともにぐったりである。しかし、十六世紀学会の準備のため、ゆっくりするわけにもいかない。少しブレイクが必要である。

トウキョウソナタ

『トウキョウソナタ』をみる。2008年カンヌ映画祭において、「ある視点」部門審査員賞を受賞した、黒沢清監督の映画である。カメラワークがとても面白く、たとえば、役所広司扮する泥棒役に妻役の小泉今日子が誘拐され、逃亡の機会があるにも関わらず、…

カルヴァンと神理解

カルヴァンの神理解については、いやというほど出版物が多い。バルト以降、特にカルヴァンの人間理性による神理解と啓示による神理解の分析に、多くのページが割かれて来た。戦後は、エミル・ブルンナーのもとでの博士論文であるDoweyのThe Knowledge of God…

宗教改革と人文主義

人文主義と宗教改革の関係性については、古くはディルタイやトレルチ、60年代に入りメラー(Bernd Moeller)、そして近年ではHeiko Oberman, Cornelis Augustijn、Thomas Bradyなどが優れた研究を出している。特に最近の研究では、Sachiko KusukawaのThe Tra…

前近代と宗教改革

総合試験の準備も大詰めだ。中世をあとにして、前近代(early modern)に入る。「概論」、「イエズス会とアジア宣教」、「人文主義と宗教改革」、「カルヴァンと神の知識」、「オランダ宗教改革」、そして「スアレスと新スコラ学」。イエズス会とアジア宣教を…

中世イスラム

シカゴ大学Committee of Social Thoughtの教授であったMarshall Hodgsonの三部作のvol 2。"Islamdom" "Islamicate"等のネオロギスムスがあり、晦渋な文章は気になるが、情報量の豊富さはすごい。精神史を専門にやっていた人の歴史書だが、政治・経済発展史も…

中世・ルネサンス政治思想

The Foundations of Modern Political Thought: Volume 1, The Renaissance作者: Quentin Skinner出版社/メーカー: Cambridge University Press発売日: 1979/02/15メディア: ペーパーバック クリック: 1回この商品を含むブログ (3件) を見るVol2は読んでいた…

中世概論

総合試験のため古代を終え、中世に突入。今週後半は立て続けに、概論3冊を読む。Medieval Foundations of the Western Intellectual Tradition (Yale Intellectual History of the West Se)作者: Professor Marcia L. Colish出版社/メーカー: Yale Universi…

アタナシウスと二ケア論争

David M. GwynnのThe Eusebians: The Polemic of Athanasius of Alexandria and the Construction of the 'Arian Controversy'(2007)をもって、一応アリウス議論関連の本を読み終わる。ほかにもR.P.C. HansonのThe Search for the Christian Doctrine of God…

平井先生とフィリー

平井博士にあいにフィラデルフィアへいく。ちょうど一年前の5月24日にフィリーでお会いしてから色々とお世話になっている。平井博士は1999年にフランスのリール大学で博士号をとられ、2005年に出版された彼の処女作はヨーロッパのいくつかの学術賞を…

スピノザの日

今日は朝から、スピノザに関する論文発表が大学であった。大学の哲学科のダニエル・ガーバー教授の提案で、一日をスピノザの研究発表につかう日をもうけられたようだ。Harry Frankfurt(プリンストン)、Pina Totaro(ローマ)、Sandra Field (プリンストン)、Ca…

ユルゲン・ハバーマス

五時からハバーマスの公開講義をききにいく。"The Utopian Surplus of Human Rights"というタイトルでのレクチャーだったが、やはりハバーマスではだめだ。

The Sixteenth Century Society and Conference

今年の10月14日から17日に、カナダのモントリオールで開催される十六世紀学会で、メランヒトンの論文を発表することが正式に決まる。モントリオールは初めてなので楽しみである。論文を短くまとめたりする作業もしなくてはならないので、忙しくなりそ…

スピノザ研究

オランダから優れた研究書が英語でわんさか出ている。今日読んだ以下の本もロッテルダム大学のものだ。Wiep van Bunge, From Stevin to Spinoza: An Essay on Philosophy in the Seventeenth Century Dutch Republic (Leiden: Brill, 2001).Van Bungeの論文(…

J. Kameron Carter

今夜、キング牧師を記念した公開講義で、デューク大学のJ. Kameron Carter博士を招いて、“An Unlikely Convergence: W.E.B. Du Bois, Karl Barth, and the Problem of the Imperial God-Man” というレクチャーを聴いた。 Carter博士は、Race: A Theological …

内村鑑三と天皇

先日プリンストンの歴史学科の集まりで「内村鑑三と天皇」というテーマで発表する。上智のマーク・マリンズ教授が先に発表して、その後に続く。論点は、内村の内包する二つの論理的矛盾。一つは、内村が、大日本帝国憲法を近代的立憲君主制を定めたものとと…