宗教改革と人文主義

人文主義と宗教改革の関係性については、古くはディルタイやトレルチ、60年代に入りメラー(Bernd Moeller)、そして近年ではHeiko Oberman, Cornelis Augustijn、Thomas Bradyなどが優れた研究を出している。特に最近の研究では、Sachiko KusukawaのThe Transformation of Natural Philosophy: The Case of Philip Melanchthon(1996)やErika RummelのThe Confessionalization of Humanism in Reformation Germany(2000)が面白い。


Kusukawaの研究は、ケプラーなどに代表される自然哲学者に多大な影響を及ぼしたメランヒトンの自然哲学を、宗教改革の哲学と20年代から30年代にかけての政治的動揺という文脈より分析している。ひとたびルターの徹底的な批判を浴びたアリストテレスの自然・道徳哲学の復権が、いかにしてメランヒトンによってなされたのか。後者のDe Animaの注解などが、どのようにルターの神学を擁護するために役に立ったのか、など興味深い質問に答えている。


Rummelの研究は、メラーの"Ohne Humanismus, keine Reformation"を押し進め、宗教改革が人文主義に及ぼした影響を描いている。Lewis Spitzなどの研究よりも、人文主義と宗教改革者たちの違いを鮮明に出し、あくまでも宗教改革者たちは「宗教家」であるという理解だ。


両者とも1530年以降、カトリックとプロテスタントという信仰告白の違いにより差異化されていく社会の中で、人文主義とルネサンスの自然科学がはたした役割を鮮明に描き出している。同様の研究が、1555年以降のヨーロッパを対象に包括的になされなければならないであろう。神学と哲学が分離不可能な時代を、その時代の文脈にあわせて描くことは困難なことではあるが、それぞれの研究分野に留まり、「科学革命」や「啓蒙思想」や「近代神学」という視座のみでしか研究しない時代は終わりにしなければならない。

The Transformation of Natural Phil (Ideas in Context)

The Transformation of Natural Phil (Ideas in Context)

The Confessionalization of Humanism in Reformation Germany (Oxford Studies in Historical Theology)

The Confessionalization of Humanism in Reformation Germany (Oxford Studies in Historical Theology)