The Continuum Companion to Spinoza (2011)

The Continuum Companion To Spinoza (Continuum Companions)

The Continuum Companion To Spinoza (Continuum Companions)

  • 作者: Wiep Van Bunge,Henri Krop,Piet Steenbakkers,Jeroen Van de Ven
  • 出版社/メーカー: Continuum Intl Pub Group
  • 発売日: 2011/05/12
  • メディア: ハードカバー
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数えきれない程のスピノザの入門書が世に出回っているが、2011年にContinuumから出版されたこの本は思想史的な切り口からスピノザを理解したい方には最も適しているものだと思う。Cambridge Companionシリーズからもスピノザの入門書(1996)は出ているが、Pierre-françois Moreauをのぞいては、英米系の研究者が分析的な手法を用いてスピノザ哲学を読んでいるので、スピノザの姿にやや厚みがない。それに比べて、本書はオランダ系のスピノザ研究者が中心となり、スピノザの歴史的・思想的文脈に配慮した作り方になっているので、「異質」なスピノザの姿が浮かび上がってくるのではないだろうか。


乱暴なまとめ方だが、BennetやCurleyに代表される英米系のスピノザ理解は、あくまでもスピノザをコンテンポラリーとして理解しようとする。この伝統の中では、Michael Della Roccaの研究が秀でており、「充足理由律」がスピノザ理解の鍵であるという彼のメインテーゼに躓かなければ、多くの示唆を受ける。また、60年代後半にゲルーやドゥルーズから始まったフランス系のスピノザ理解も、歴史的な要素も含みつつ現代的な問題意識を持っている。白水社のクセジュシリーズから『スピノザ入門』を出しているP.F.モローがこの流れのリーダーであろうか。P.マシュレの五巻に渡るIntroduction à l’Ethique de Spinoza(1994-98)もとても興味深い。


スピノザ理解の三つ目の流れとしては、本書の編集者であるWiep van BungeやTheo Verbeekに代表されるオランダ系の歴史的スピノザ理解である。英米系、フランス系に比べて、最もインタレクチュアルヒストリーの手法に忠実であり、スピノザの思想自体はいうまでもないが、スピノザの同時代人や社会・政治的な文脈に着目し、多くの研究者が面白い著作を発表している。いうまでもないが、オランダ系であってもJonathan IsraelやFrédéric Manziniもこの流れに含まれるべきであろう。


前置きが長くなってしまったが、手短かに本書を紹介していきたい。本書は6つの大きなセクションに分かれており、順に「生涯」「影響」「初期の批判者たち」「用語集」「著作のまとめ」そして「スピノザ研究」となっている。最初の章は、Jeroen van de Venが担当しており、Manfred Waltherによって編集されたFreudenthalのDie Lebensgeschichte Spinozas(2006)のように、16世紀末のスペイン・ポルトガルの背景から1679年3月までのスピノザに関する事象が、文献的証拠を用いて詳細に描き出されている。第二章は、Pete Steenbakkersによるスピノザの神学・哲学的影響がリスト化されている。デカルト、ブルゲルスダイク、またマイモニデスのみならず、Franciscus van den Endenやユダヤ思想のDelmedigoの影響が分かりやすくまとめられており、原書にアクセスできなくともある程度の思想的文脈を理解することができる。第三章は、Wiep van Bungeが担当する初期のスピノザ批判者たちについての論考である。ベール、Samuel Clarke、ヘンリー・モア、Bernard Nieuwentijt、John Toland、クリストフ・ウィティキウスらのスピノザ批判が簡潔にまとめられている。


スピノザ哲学用語をまとめた第四章は、Henri Kropによって担当されている。200ページ近くがこの章にさかれており、本書の約半分をしめている。第五章は、Piet Steenbakkersによるスピノザの著作のサマリーである。『ヘブル語文法』も含まれており、初学者には有益な章である。最後の章は、Wiep van Bungeがオランダ、ベルギー、フランス、イタリア、スイス、フィンランド、米国、カナダでのスピノザ研究の動向についてまとめている。


思想史の枠組みの中でスピノザを読むことは、歴史に名を残さなかった多くの人々のマイノリティーレポートをひもといていかねばならず、多大なる労力を要する。しかし同時に、この作業は思想家の著作を読み解いていくだけでは見ることのできなかった重層的な姿を目の前にすることができる。スピノザを思想史的に読むという、険しく困難な道のりのすばらしい案内人と本書はなるのではないだろうか。


From Stevin to Spinoza: An Essay on Philosophy in the Seventeenth-Century Dutch Republic (Brill's Studies in Intellectual History)

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Spinoza's Theologico-Political Treatise: Exploring 'The Will of God'

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Descartes and the Dutch: Early Reactions to Cartesian Philosophy, 1637-1650 (Journal of the History of Philosphy)

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Representation and the Mind-Body Problem in Spinoza

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スピノザ入門 (文庫クセジュ)

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  • 作者: ピエール=フランソワモロー,Pierre‐Francois Moreau,松田克進,樋口善郎
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2008/08
  • メディア: 単行本
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