岩井淳『ピューリタン革命の世界史』

岩井淳『ピューリタン革命の世界史』ミネルヴァ書房、2015年


 本書は、17世紀中盤にイングランドで展開した革命運動を、国際関係と宗教思想との関係のなかで分析したものである。ピューリタン革命ともよばれるこの運動は、ながく近代社会の嚆矢とみなされてきた。近代社会の雛形をピューリタンたちの思想に見出したヴェーバーの社会学の影響をうけた研究にこの傾向はしばしばみられる。彼らはピューリタニズムのなかに「資本主義の精神」や「民主主義の源流」といった近代的要素をみいだしたのである。だが、60年代に入りピューリタニズムを近代思想と切り離し、過渡期のイデオロギーとみなす研究が現れ始めた。なかでも重要なのは、終末論や千年王国論を分析の対象とした研究である。本書もこれらの研究のながれにあるといえよう。著者によると、千年王国論は従来考えられていたように社会の周辺にいた第五王国派やクェイカー派といったセクトによってのみ受け入れられていたわけではない。むしろ、革命の担い手であった独立派が、世界の再建に取り組むにあたってよりどころにした思想とみなされるべきなのだ。すなわち革命は、キリストの再臨による世界の終焉が間近に迫っていると考えた人々によって促進され、新しい社会と政治の姿が描かれていったのである。


  また、著者が提供するもうひとつの重要な視点は、革命をイングランド一国の出来事として理解するのではなく、複合国家、そして国際関係のなかで理解していく点にある。日本でしばしばこの革命は「イギリス革命」とよばれるが、「イギリス」という名称は複合国家である。クロムウェルの革命政府は、アイルランドとスコットランドを配下に収めた国家として理解されなければならない。また、革命の担い手であったピューリタンのネットワークはオランダやニューイングランドに広がっており、革命時にイングランドに帰国したピューリタンの役割やニューイングランドでの千年王国論がもたらした政治的な影響などを著者は描きだしていく。


 この二つの視点をもとに、本書はフランスとスペインの間でゆれるスチュワート期の国際関係から、革命後のより一貫した「プロテスタント外交」とイングランドの国益を追求する中央政府の外交政策を分析していく。そのなかで、これまでピューリタン革命史においてそれほど重要視されてこなかった千年王国論という宗教思想の重要性を明らかにした本著の分析は実に鋭い。また、宗教思想の分析にとどまることなく、国際的な広がりをみせるピューリタンのネットワークというこの思想の文脈を明るみにだすのに成功しているのは特筆に値するだろう。政治史と思想史と社会史を複合的に組み合わせた本研究は、革新的な方法論のひとつのモデルとしても学ぶべきところが多いのではないだろうか。ちなみに昨日(2016年4月9日)上智大学の初期アメリカ学会(日本ピューリタニズム学会との共催)で本書の合評会が開かれたのだが、スケジュールの都合上、参加できなかったのが悔やまれる。